前回の記事で、株主優待を取得するための最低条件は、「証券取引口座」と「株を買うためのお金」と紹介しましたが、今回の記事ではさらに一歩進んで、株価変動リスクをゼロで株主優待を取得する方法「クロス取引」について、信用取引口座の開設、取引区分(制度・一般)などを交えて紹介します。
また、話をスムーズに進めるために、株主優待クロス取引において最も重要な要素となる「一般信用売建可能数量(在庫株数量)」が業界NO.1(筆者調べ)である「auカブコム証券」を例として取り上げながら解説します。
株価変動のリスクがゼロとなるクロス取引
一口に「クロス取引」と言っても、証券業界においてはさまざまなケースがありますので、この記事では、個人投資家が市場で行う売り買いの注文に限定して話を進めます(一般的なネット証券を通した売買のこと)。
- クロス取引は「つなぎ売り」や「タダ取り」とも呼ばれることがありますが、後者の「タダ取り」はウソです。必ず売買手数料や貸株料などのコストが発生しますので、株主優待をタダで取得できることはありません。
- タダ取りは、株価の変動による譲渡損失を回避できるという意味で、クロス取引では、その他のさまざまなコストが発生する点に注意してください。
クロス取引とは、任意の銘柄に対して、同株数の買い注文と売り注文を発注して約定させることです。
この際、通常は寄付前にいずれも成行で発注することによって同じ株価で約定します。
寄付後、株価は変動しますが、買いも売りも同値で同じ株数を保有しているので損失(利益)は発生しません。
つまり、株価1,000円の銘柄を100株クロス取引した場合で株価が900円になっても、「買いは-10,000円」、「売りは+10,000円」となりますのでノーダメージということです。
実際に、ネット証券口座内の画面表示もこのようになります。
では、クロス取引を行うためには何が必要なのか。この点について、次項から詳しく紹介します。
以下は、auカブコム証券における「株主優待クロス取引」のわかりやすい解説ページです。ご参考に。
株主優待をクロス取引でもらうために必要な信用取引とは
まず、クロス取引を行うために必要な条件を列記します。
- 証券取引口座
- 証券取引口座内の信用取引口座
- 信用取引の知識
- 口座に入金するお金(保証金)
特に大事なのは、「信用取引口座」と「信用取引の知識」です。「口座」は当たり前ですが、「知識」も絶対条件です。
知識がないまま信用取引を行うと大きな損失を出してしまう可能性があります。例えば、数千円相当の株主優待をもらうために10万円以上の損失を出してしまったり…
筆者はこの分野に20年近く身を置いていますが、上記のようなケースを何度も目にしていますし、未だに怖さを感じながら取引を行っています。
ただし、注意すべき点はわずかです。株主優待のクロス取引市場に参加する数千人~数万人の方々が、この「怖さ」を健全に理解した上で参加していますので、誰でもリスクを回避できます。
ではまず、最初の難関である「信用取引口座」の開設について。
信用取引口座の開設には審査がある
信用取引は、預けた保証金の3倍程度の金額まで売買できる取引方法です。
例えば、100万円を委託保証金として口座に預けている場合、現物取引では100万円までしか購入できませんが、信用取引を使うと300万円までの購入が可能となります。
- 上記では、便宜上「300万円までの購入」と表現していますが、信用取引の場合、正確には「購入」とは言わず、「新規買付(売付)」または「買い(売り)新規」といった専門用語が使われます。
- また、残高についても現物の場合は「保有残高」「保有株」などと呼ばれるのに対して、信用の場合は「建玉残高」「信用建玉」などと呼ばれます。
つまり、自分の資産以上の売買が可能となるため、リスクもその分増加するわけです。
他にも信用取引を行う場合、貸株料、逆日歩、信用事務管理費などの費用が発生するケースがあるため、証券会社側でも、そういった仕組みをちゃんと理解している顧客かどうかを確認する必要があります。
これが「審査」を行う理由です。
以下は、auカブコム証券における信用取引の諸費用に関するわかりやすい解説ページです。
信用取引口座の審査基準とは
審査にはさまざまな項目がありますが、この記事では、審査で最もはじかれることが多い項目について簡単に紹介します。
金融資産
各証券会社で異なりますが、概ね100万円~300万円の金融資産を求められます。
信用取引は、自己資金以上の取引が可能なため、損失が出た場合でも、その人に追加で入金できる余力があるかどうかを確認しているものと思われます。
投資経験
筆者が審査に落ちた人を見た中で最も多かったのが、この「投資経験」の項目です。
こちらも各証券会社によって多少の違いはありますが、概ね、信用取引の取引経験、または、「半年以上」もしくは「1年以上」の現物株式の取引経験を求められます。
電話によるヒアリング審査
筆者は現在6社のネット証券で信用取引口座を開設していますが、その中で1社だけお電話をいただいて口座開設に至った証券会社があります。
他の証券会社ではなかったのにここだけ電話があった理由は、おそらく、この証券会社で現物株式の取引経験がなかったからではないかと思われます。
「電話があるかもしれない」と予測できていたので、電話をいただいてすぐに、自分がもっている信用取引の知識を並べ立てたところ、審査はわずか1分ほどで終了しました。
先方からも「疑って申し訳ない」といった感じが伝わってきたので、逆にコンプライアンスを徹底したしっかりとした会社だという印象を持ちました。
信用取引口座開設の流れ:auカブコム証券の場合
一例として、auカブコム証券における信用取引口座開設の流れを、一般的なポイントも交えながら要約して掲載します。
- ログインして信用取引口座開設の申し込み
- 一般的には「マイページ」「手続き」「申込」「信用取引」などのページに申し込みボタンがあります。
- 筆者の経験の範囲ですが、証券口座開設と同時に信用取引口座が開設できるネット証券はありませんでした。まずは、証券取引口座の開設が必要だと思われます。
- WEB審査
- WEB審査は申込フォームへの入力のことを指しています。この段階では正式な合格とはなりません。
- auカブコム証券による審査
- WEB審査に通過した後は人による最終審査が行われます。
- カブコム側で必要だと判断した場合は電話による審査が行われます。これはどのネット証券でも同じ流れなので身構える必要はありません。
- 信用取引口座開設完了のメール
- 一般的には、メールまたはログイン後のメッセージなどで合否の通知が行われます。
具体的な口座開設の流れは下記公式ページを参照してください。
信用取引の取引区分
信用取引とは、前述の通り、証券会社から文字通り「信用」を得ることによって可能となる取引です。
信用取引口座開設の審査を通過した後は、実際に委託保証金として最低でも30万円を預ける必要があります。このお金が担保の役割を果たすことによって、証券会社からお金を借りて、株を買ったり売ったりすることができるようになります。
また、信用取引には、大きく分けると2つの種類が存在します。「制度信用取引」と「一般信用取引」です。
株主優待をクロス取引でもらうためには、それぞれの特徴、違いの把握は必須となります。
制度信用取引
- 売り買いできる銘柄は証券取引所が選定
- 「制度信用売建」ができる銘柄は約2,700銘柄(2024年6月時点)
- 逆日歩が発生する場合がある
- 返済期限が原則6か月に定められている
一般信用取引
- 売り買いできる銘柄は各証券会社ごとに独自選定
- 「一般信用売建」ができる証券会社は少ない
- 一般信用(長期)の売建可能銘柄が最も多いのは「auカブコム証券」で約1,370銘柄
- 売建可能数量(在庫株数)が最も多いのも「auカブコム証券」(在庫株の総数)
- 上記は2024年6月時点の筆者調べ
- 逆日歩は発生しない
- 返済期限は証券会社によって異なる(短期・長期・無期限など)
クロス取引にも制度信用取引と一般信用取引の2種類がある
クロス取引は信用取引を利用した売買手法です。そのため、信用取引の種類が2つ存在するのであれば、当然、クロス取引も2種類存在することになります。
どちらも、株価の変動リスクを回避できる点については同じですが、株主優待をもらうためにクロス取引を利用する場合には大きな違いが現れます。
どちらが優れているかは一概には言えませんが、「低リスク」に焦点を当てた場合には、一般信用取引を利用したクロス取引に軍配が上がります。
ここでも、その違いを簡単に紹介します。
制度信用取引を利用したクロス取引
- クロス取引ができる銘柄数が豊富で、ほとんどの場合、権利付最終日でのクロスが可能なので、事前にクロス取引を行って、長い日数分の貸株料を支払わなくてよい。
- その反面、権利落ち日にならないと株不足だったのかどうかわからないので、大きな逆日歩を支払うことになる場合がある。
- 極端な例では、逆日歩日数や株数によっては、数万円から数十万円の逆日歩金額になることも。
- これが前述した「知識がないまま信用取引を行うと大きな損失を出してしまう可能性」です。
一般信用取引を利用したクロス取引
- クロス取引ができる銘柄数や在庫数が限られている上に、人気がある銘柄には売り注文が殺到するため、クロス取引できない場合も多い。
- 上記の理由で事前に(在庫がなくなる前に)クロス取引を行うと、長い日数分の貸株料を支払うことになる(俗に言う「ロングクロス」)。
- 極端な例では、人気の「すかいらーくホールディングス(3197)」や「コロワイド(7616)」などでは、数千円~1万円近くの貸株料を支払うことも(前者は1,000株クロス、後者は500株クロスの場合)。
- その反面、逆日歩は一切発生しないので、コストを自分自身で限定できる。
2種類のクロス取引のまとめ
前項までの特徴、違いを踏まえると、
- 初心者または貸借倍率などのデータを、能力または時間的な問題で読み取ることができない人は「一般信用クロス取引」のみで優待市場に参戦。
- 数々の経験を積み重ねた優待マスターレベルの人は「制度信用クロス取引」も交えながら優待市場に参戦。
と考えるのが一般的ではないでしょうか。ただ、優待マスターはこの記事を読まないと思いますが…
おわりに
株主優待をクロス取引でもらうためには信用取引が絶対条件です。
また、低リスクな一般信用取引でクロスを行う場合には、売建可能な在庫株数が重要な要素となります。
一般信用取引サービスを行っている主なネット証券
- auカブコム証券
- SMBC日興証券
- 楽天証券
- SBI証券
- GMOクリック証券
中でも、auカブコム証券の在庫株数には定評があり、信用口座を持っているかどうかでクロスの成果に大きな違いが表れますので、口座未開設の方はぜひこの機会にご検討ください。
※本ページの内容は、2024年6月が基準となっています。
コメント
たっくんさん
受け渡し日はいつになってますか?9月優待の場合、受け渡し日が10月1日になっていれば、9月30日は保有状態だったはずなので大丈夫だと思いますが。
受け渡し日:10月1日…セーフ
受け渡し日:9月30日…アウト
ですね。
クロスを振ったら、権利落ち日に現渡で信用売りを解消すればいいと思うのですが、SBI証券では約定日がバックデートになって権利最終日が表示されます。これでは優待はもらえないのではないかと心配です。注文自体は確かに権利落ち日にしたのですが?